ピレリ ICE ZERO ASIMMETRICO【日本市場へ向ける】

エコ~低燃費タイヤへの変遷

 エコタイヤとは何? 燃費がいいこと(低燃費、省燃費)かな。決して間違いではないけれど、当初からメーカーの動きを詳細に追って来たのならこれだけじゃ物足りない。

 エコロジー + エコノミー で括るのがいい。低燃費に優れ燃料費を抑える、それは結果として走行時のCO2排出量を削減し環境に優しい、に繋がります。エコ=低燃費、だけではない。更にはエコバランス性能も追求しています。発展期におけるメーカー主張はここを声高に訴えて来ました。

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転がり抵抗とは? まずこの理解

 クルマの走行時には様々な抵抗を受けます。ヨコハマによると最大は空気抵抗で約65%にも及ぶという。そして20%がタイヤの転がり抵抗、その他部品の内部摩擦抵抗15%など。これを低減させればクルマの燃費が抑えられる、つまり使用する燃料の節約を実現しCO2の削減にも繋がる訳です。

 効果大きいとされるのがエコタイヤ、でも転がり抵抗とは何? 簡単に言えばクルマの走行時に受けるタイヤの抵抗で次の3つが挙げられます。走行時の変形によるエネルギーロス、トレッドゴムが路面との接地摩擦によるエネルギーロス、回転に伴う空気抵抗によるエネルギーロス。うち走行時の変形が全体の90%を占めるという。

 変形に対して少し詳しく。タイヤはゴムで形成されており回転すると接地面が変形します。一方で元の形に戻るという動きがあり双方を繰り返します。この時に転がり抵抗(エネルギーロス)が生じ、一部は熱となってタイヤの温度を上げてしまいます。

 これを相殺すれば低減が実現します。更にグリップも同時に保てれば、低燃費に優れ走りの安定性が得られます。しかし、双方は相反性能であって両立は難しい課題です。

 そこでミシュランが素材として採用したのが、シリカという二酸化ケイ素。カーボン(炭素)に比べ発熱量が少なく、コンパウンドに配合することでエネルギーロスを抑え転がり抵抗低減に優れます。更にはウェットやアイス路面で摩擦力が高く、湿度による硬度変化が少ないなどの特性も持っています。

 これらの技術をミシュランは グリーンXテクノロジー と呼び、1993年に発売した「MXGS」は同テクノロジーを搭載し日本で最初に発売したグリーンタイヤ、そうエコタイヤです。

エコタイヤの進化

 各メーカーでエコタイヤの発端は様々だけれどミシュランは既述した通りです。そして国内メーカーも様々な発想で実現を図ります。以下当時話題になったヨコハマとダンロップの製品に触れます。

 ヨコハマは既存「BluEarth」へ繋がる「DNA」にその役割を課しました。1998年にいち早く、という主張をしています。DNAコンセプトはタイヤの基本性能にプラスして環境の為に燃費を変える、これ第3の性能を強調します。

 製品展開は見えるところから。「DNA dB」を進化させた「DNA dB ES501」を2004年に発売。そこから大きく進化し2007年「DNA dB super E-spec」を投入。重量構成比の80%に非石油系資源を使用。限りある石油資源の使用を減らすと伴に、廃棄時の焼却によるCO2の発生を抑えることにも主張に盛り込みました。

 ダンロップはエナジーセーブとネイチャーセーブを組み合わせた「エナセーブ」の開発スタートが2001年です。2004年にその影響を受けた「DIGI-TYRE ECO EC201」を発表。基本である転がり抵抗を約10%向上しました。

 そして2006年投入の「エナセーブ ES801」は、石油外資源を採用した超エコタイヤを強調。原料である化石資源を天然資源に置き換える石油外天然資源比率を、従来の44%から70%に高めた製品です。2008年には石油外天然資源比率を97%にまで引き上げた「エナセーブ 97」を切り札として発売しました。つくるとき、使うとき、廃棄するとき の3段階でCO2の削減を訴えます。

 このあたりが双璧として上り詰めたピークでは。しかしターゲットは当時プリウスなどのHVを想定し設定サイズは 195/65R15 のみというような最小展開、まずは環境に敏感なユーザーを狙ってのこと。反応を見てその後拡大を、だったかと。

石油外の新素材

 石油外天然資源、そしてこれまでの天然ゴムのあり方が大きな転換を迎えていたのもこの頃かと。東南アジア等を中心としたパラゴムノキに代わる新たな素材としてグアユールに注目。またロシアタンポポ由来の研究も進んでいます。

 新たな素材から天然ゴムを採り出すことは安定供給へ繋がります。素材の安定化はメーカーにとって長年の課題です。実現は環境面、そして末端での価格へ期待が膨らみます。これだってエコに関連する。

 エコに拘る発想はこれまでの経緯展開から理解するのがいい。一部の側面だけではなく様々な可能性を投げかけています。

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低燃費タイヤの世代進化(最新第5世代)

 低燃費タイヤは2010年1月から導入され、2023年は14シーズン目を迎え世代進化が進みます。世代進化で表すと第5世代まで到達したと考えます。

・第1世代:導入から2013年あたりまで。初期の様相で入り乱れる。
・第2世代:2014年から2016年。1~2世代の熟成期に到達。
・第3世代:2017年から2020年。過去2世代を括る。本来の主張に立ち戻る。
・第4世代:2021年から2022年。電動車に向けた主張を強化。
・第5世代:2023年から‥。低車外音タイヤの表示制度を定める。

 エコを取り巻くタイヤ事情は大きな変革を果たしました。低燃費タイヤの第4世代ではスポーツやSUVへも導入が実現、また規定を満たさなくとも特性の割り切りで明確な線引きが適っているかと。そして第5世代は車外騒音基準値を満たす表示制度を定めています。

 世代進化は好意的に捉えられ販売ボリュームにも表れています。2018年には販売店等で売られる製品の80.7%が低燃費タイヤだったという。因みに導入開始からの推移は以下の通りです。(いずれもJATMA資料より)

 2021年 79.3%

 2020年 81.1%
 2019年 79.1%
 2018年 80.7%
 2017年 79.1%
 2016年 77.5%
 
 2015年 68.3%
 2014年 63.6% 
 2013年 59.8%
 2012年 44.6%
 2011年 40.7%

 2010年 21.7%

燃費改善を具体的に示す!

 転がり抵抗係数、グレーディングが1つ上がると燃費は約1%改善されるという。ブリヂストンの指針です。転がり抵抗係数「A」から「AA」に替えた場合は約1%改善、「AAA」では2%の改善です。低燃費タイヤ既定外の「B」から「AAA」なら3%の改善が期待出来ます。

 具体的に示してみましょ。ガソリン価格を170円/Lとした場合なら、1%改善で1.7円、2%改善で3.4円、3%改善で5.1円安くなります。これを走行距離10,000km、燃費10km/Lとして年間額で算出します。(改善金額×10,000km÷燃費10km/L)

 3%改善 5,100円
 2%改善 3,400円
 1%改善 1,700円

 燃費の改善はCO2排出量削減に貢献します。従って当サイトが訴えるエコロジー + エコノミー に繋がります。

スポーツタイヤにとっては暗黒時代だった

 2010年に低燃費タイヤが導入されたのでその前後5年程かと。いや既にバブル崩壊後に始まっていたかと。それまでの豪華なバブルカーから一転し低燃費化が顕著に進み、当然ながらタイヤも沿うことに。スポーツタイヤにとっては暗黒時代の突入です。

 当時は世界的風潮としてCO2排出量の削減が叫ばれた頃でした。環境への取り組みにメーカー主張を強める必要があったわけです。自動車産業は大きな役割を持たせられ、一角に属すタイヤメーカーにも責務が課せられました。こんな事情がきっかけで出現したのがエコタイヤ、更に完了形が低燃費タイヤになります。

 ブリヂストンとヨコハマのカタログ、2007年シーズンはいずれもエコの文字が多数。製品展開トップに来るブランドは、ブリヂストンが「REGNO」、ヨコハマは「DNA」です。特にヨコハマはスポーツとSUV以外は「DNA」のブランドがかならず添えられる展開です。恐らくダンロップ、トーヨーなども同様だったかと。

 低燃費タイヤの普及は2014年に第2世代入り、60%を超え一定の成果を確認しました。これで呪縛からは開放され、スポーツが飛躍的な主張復活を遂げたの2015年シーズンから。フラッグシップとなる展開が戻り、本質の追求がようやく復活したのです。

 そしてスポーツにも低燃費タイヤの投入が実現します。必ずしも低燃費タイヤのみが高性能で素晴らしいとは言い切れないけれど、普及が進む現在、タイヤ選択の基準となっていることは間違いない。一定要件を満たすには相応の技術搭載が必要、しかも相反する性能のレベルが高いほど実現は困難を極めます。その一つがスポーツタイヤです。

 スポーツタイヤは、ブロック面を広く確保し接地性を稼ぎ高いグリップ性能を得ています。その結果、加速や制動、コーナリングを高い次元で実現します。抵抗の大きさ、と言っていいだろう、低燃費とは間逆の方向です。スポーツカテゴリーにおける低燃費タイヤ化が果たされて来なかった理由として、ここポイントになるはずです。

 2016年にヨコハマが投入した「ADVAN FLEVA V701」がようやくその殻を破りました。この意味は非常に大きい。位置付けは圧倒的グリップ性能を誇るピュアスポーツには届いていないものの、街中での快適性とスポーツ性能を底辺から支える懐の広い製品として、カテゴリー内での新たなポジションを強調します。

 流れは全体へ波及、低燃費に凝り固められた主張はカテゴリー本来の特性へ回帰、低燃費を含めたタイヤの本質、多様性を取り戻します。

 SUVタイヤへの実現も同様かと。M+Sなどの冬用性能を搭載するケース多いのが足枷でした。従って導入開始以来実現を果たしてこなかったのです。しかし、2014年にミシュラン「LATITUDE Sport3」が、SUVカテゴリーとしては初めて低燃費タイヤの規定を満たします。そして2015年にはトーヨー「PROXES CF2 SUV」が続きます。

 規定を満たすことで性能縮小化に割り切らなければならないのなら、意味は薄いと考えます。その結果が投入への消極性になっていたとも言えそう。ただ近年の車種としてSUV人気では、専用タイヤの先進性が強く求められています。ここに反応し色んな意味で性能両立を果たしています。

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